新潟県三条市・旧下田村の橘さんがつくる昔ながらのコシヒカリ
新潟県三条市の旧下田村は、知る人ぞ知る米どころです。
三条市の南東、魚沼との境にある烏帽子岳を水源とし、ほぼ全域に渡って、アユやイワナ、カジカなどの川魚が生息する五十嵐川のほとりにあります。
近くにはヒメサユリが自生し、ハヤブサの繁殖地としても有名な八木鼻という岩山がそびえています。
そんな自然豊かな地域で農業を営む橘 清久さん(いつも、おじさんと呼んでいるのでおじさんと書きます)。
おじさんとの出会いは、もう10年も前にさかのぼります。
2004年に発生した中越地震。長岡に縁があることから、当時はボランティアで新潟県と東京とを行ったり来たりしていました。しかし、実は階段から滑り落ちて骨折していて、松葉杖をついていたため避難所ではほかほかのお饅頭を配る位しかできませんでした。それでも、何かできることはないかなと東京にいる間は、都内で開催される中越復興のイベントに顔を出したりしていました。冬の表参道で、骨折した方の足は包帯でぐるぐる巻きのため靴もはけず寒さでかじかみ、よろよろしていたら、橘のおじさんが声をかけてくれました。
「俺の米食べて、早く治せ!」
被災者のおじさんに心配されてしまい、申し訳ないと思いつつ試食のおむすびをいただきました。
え!?
私が知っているコシヒカリとは味が違う!
新潟県にはよく行っているし、東京でコシヒカリを買って食べたこともありました。でも、全然味が違うのです。
美味しい!このお米買いたい!と感動した私に、おじさんは言いました。
「自分の食べるものがどんな所で、どんな風につくられているのか、確かめてからにしろ。」
復興のための販売にわざわざ新潟県から表参道まで出てきているのに、妙なおじさんだなあと思いました。
そして春が来て足が治ってから、「筍掘りもできるぞ」というおじさんの巧みな誘惑につられて、下田まで行きました。
田んぼ、用水路、山奥の水源、裏山で発酵させている有機肥料、苗床、などなど全部連れて見せてくれました。
橘のおじさんが栽培しているのは、品種改良される前のコシヒカリです。
新潟県内で栽培されているコシヒカリのほとんどは、コシヒカリBLという品種改良され、病気や倒伏などに強くなった品種です。
おじさんは、昔食べた味の記憶のままのコシヒカリをつくりたくて、品種改良前のコシヒカリをつくり続けています。
食の安全を守るために、当時から農薬や化学肥料をなるべく使わないようにと、様々な取組みを重ねていました。
例えば…
- 田植えの時期が、近隣の田んぼより半月くらい遅い
- 苗を植える間隔が、よその田んぼより広く、スカスカしている
- 田植えをしたのに、いきなり田んぼから水を抜いている などなど
いずれも稲が地中深く根を張り、田んぼの栄養をたっぷり吸収して、強く育つための工夫です。
橘さんのお米は、田んぼ1枚あたりの収穫量が近隣の田んぼに比べて7割程度しかありません。その代わり、豊作の年も不作の年も大体同じくらいの量が収穫されます。
そんなちょっと変わったおじさんの人柄とコシヒカリの美味しさに惹かれて現在に至っています。
無農薬有機栽培への挑戦
数年前、自然農法による野菜作りを学ぶ機会がありました。
橘のおじさんと「どうやってやるんだろう?」と試行錯誤を始めました。
おじさんの田んぼの中でも、少し離れた場所の1枚の田んぼで、無農薬栽培にチャレンジしてみました。
農薬を使わないことは、おじさんの米作りのプロセスではそんなに問題にならなかったのですが、大変なのは除草剤を使わないこと。
とにかく、除草剤を使わないと雑草がはえるはえる!
雑草のせいで、収穫ゼロの年が続きました。
雑草なんて、引っこ抜けばいいじゃん、なんて軽口はたたけません。
真夏の草取りがどれくらい大変なことかは、一回体験してみるとわかります。真夏に草取りをすると、あまりの辛さに、除草剤位使ってもいいんじゃないかなと思います。
毎年「草取りに来い!」と言われながらも、サボっている私を横目に、橘のおじさんのあくなき挑戦が続きました。
おじさんの汗と努力が実を結び、ここ数年、少しですが無農薬米が収穫できるようになりました。
2017年、今年の夏の天候不順は米どころの下田地区にも深刻な影響を与えました。でも、橘さんのお米は今年も実りの季節を迎えました。
稲刈りを終え、おじさんはほっとしているかと思いきや、冬を迎える田んぼにイトミミズをたくさん放しています。
雪の中でイトミミズは、春から秋にかけて稲を育んだ田んぼの土をもと通りに戻してくれるのだそうです。
橘さんのコシヒカリってどんな味?
新米が美味しいのはあたりまえ。
炊き立ての新米は、つやつやしていて、良い香りがします。
どのお米もおいしいですよね。
橘さんの新米もそう。
しかし、何が違うかというと、実は新米よりも時間がたってからの方が
甘く、より味がのってくるのが橘さんのコシヒカリなのです。
例年、12月頃まで熟成されると甘みが強くなってきます。
冷めたり、冷凍保存した後で電子レンジで温め直して食べても美味しいのです。
例えば、玄米。
よく糠臭さをとるために、「お酒を入れたり、塩を少し入れたりして炊いています」という話を聞きます。
私は、橘さんのコシヒカリ玄米は何も加えず水だけで炊いています。
無農薬米なので、そのまま玄米のまま安心して食せるのみならず、精米した後に出る糠も、糠漬けに使ったり、筍のあく抜きに使ったり余すところなく使っています。
キのままの恵みを堪能できるのが、橘さんのコシヒカリです。
とは言っても、食べてみなければわからないですよね。
今年もまだ無農薬コシヒカリは販売出来る程の数量が確保できるかわかりません。
でも、今年は橘さんの新米を味わう会を企画しています。
詳細は、開催予定のLe Garage Kamakuraでご案内予定です。
ぜひこの機会に、無農薬コシヒカリを一緒に味わってみませんか?